クラシック音楽の楽譜にかならずといっていいほど書いてある、音楽用語。
速度を表すものから、音の強さ、表現や演奏方法など、いろんな意味の音楽用語があります。
ただでさえクラシック音楽って難しそうなのに、「音楽用語」なんてコトバは自分には分かりそうもない、なんて考える人もいるかもしれません。
でも、思っているほど難しくないんですよ。
音楽用語は、演奏を生き生きとさせてくれる魔法のコトバみたいなもの。
しかも、音楽用語は普段の日常生活の中に、わりとたくさん使われているんです。
もしかしたら気づかないだけで、あなたも音楽用語を使っているかも?
今回は、音楽用語の種類・意味と日常生活に使われている音楽用語について、そのほか知っておくと役に立つマメ知識を説明していきます。
音楽用語の種類と意味
ぼくサルなんだけど、クラシック音楽を勉強したいんだウッキー。ボクでもわかるかなウッキー。
すごいわねモンキチ君。じゃあまず音楽用語の勉強から始めましょうね。分かりやすく説明していきますよ。
クラシック音楽の楽譜は、最初に曲名が書いてあって五線紙上に音符がたくさん並んでいるものですが、それ以外にいろいろな外国語のコトバが書いてあります。
これが音楽用語です。
では、音楽用語にはどんなものがあるか、早速見ていきましょう。
じゃあ速度を表すもの・音の強弱を表すもの・曲想を表すもの・楽器の演奏方法を表すもの、4種類を説明しましょうね。
しっかり勉強するぞ~。ウッキー!
速度を表す速度標語
演奏を始めるときは、まず曲の速さがどれくらいなのかを知らなければいけません。
よく使われる速度標語の代表的なものをいくつか見てみましょう。
速度標語 | 意味 | |
遅い | Largo ラルゴ | 幅広くゆったりと |
Lento レント | ゆっくりと | |
Adagio アダージョ | 遅く | |
普通 | Andante アンダンテ | 歩く速さで |
Moderato モデラート | ほどよい速さで | |
速い | Allegro アレグロ | 陽気に速く |
Vivace ヴィヴァーチェ | 活発に速く | |
Presto プレスト | 急速に |
速度の遅い順番に並べてみました。
これが基本的な速度標語で、あとはこれにちょっとしたコトバをくっつけて応用した使い方をします。
この応用のために使われるちょっとしたコトバをいくつか見てみましょう。
接尾語 | 意味 | 使用例 | |
意味を強める | ~ssimo ッシモ | きわめて~に | Prestissimo プレスティッシモ きわめて急速に |
意味を弱める | ~etto エット | やや~に | Allegretto アレグレット やや速く |
~ino イーノ | Andantino アンダティーノ |
例えばPrestissimoはPrestoにssimo(きわめて~に)をつけたカタチ。
それによってPrestoの意味がより強くなり、PrestoよりPrestissimoのほうがテンポが速い、という意味になるの。
なんか、難しくなってきたウッキ~。
ちょっと複雑になってきたなと思うかもしれませんが、けっこう頭にはいりやすい考え方もあるんですよ。
いくつか見てみましょう。
ssimoの理解のしかた
ettoとinoの理解のしかた
ssimo(ッシモ)は、小さいツとシという鋭い発音が入っているせいか、鋭さ・激しさ・キツさがあり、もっともっとほしいというような、より強く求めている感じを受けませんか?
だからssimoをつけることによってより意味が強まる=きわめて~に、というコトバへ変化するのにピッタリ。
etto(エット)とino(イーノ)は、エット~どうでもイーノ、みたいになんとなくテキトーでユルそうな印象でしょ?
そのテキトー感から、ettoとinoは力がぬける=意味を弱めるという変化を表すのにとても似合ったコトバです。
音の大きさを表す強弱標語
速度が決まったら、次はその音楽をどれくらいの音量で演奏するかを考えましょう。
よく使われる、音の強弱を表す記号と標語をまとめました。
強弱記号 | 意味 |
pp (pianissimo)ピアニッシモ | とても小さく |
p (piano)ピアノ | 小さく |
mp (mezzo piano)メゾピアノ | やや小さく |
mf (mezzo forte)メゾフォルテ | やや大きく |
f (forte)フォルテ | 大きく |
ff (fortissimo)フォルテッシモ | とても大きく |
音の小さい順番に並べました。
最初から最後まで全く変化なく演奏するのではおもしろくないでしょ?いろいろ変化させて「色」をつけることにより、感動をあたえる演奏になるの。
音量も大きくなったり小さくなったりした方が、聴いていても楽しいウッキー。
でも、音量がただ大きくなったり小さくなったりしているだけではまだ音楽としておもしろ味が足りません。
音量の変化の応用として、代表的なものをいくつか見てみましょう。
音量変化の用語 | 意味 |
crescendo クレッシェンド | だんだん大きく |
diminuendo ディミヌエンド | だんだん小さく |
だんだん小さくの意味でdecrescendo(デクレッシェンド)という言い方もありますが、これは日本だけで言われている用語で、世界ではほとんど使われていません。
音量が徐々に変化することによって、聴いている人にワクワク感をあたえることができるのよ。
ほんとウッキー。音がだんだん大きくなると、なんだか興奮してくるウッキー。
豊かな表現をするための曲想標語
演奏する曲の速度と音の強弱が決まったら、それをどのような想いを込めて演奏するかが大切になってきます。
では次に、いろんな音楽の表現をするための曲想標語をいくつか見てみましょう。
曲想標語 | 意味 |
misterioso ミステリオーソ | 神秘的に |
tranquillo トランクイッロ | しずかに |
grave グラーヴェ | 重々しく |
sostenuto ソステヌート | 音の長さをじゅうぶんに保って |
doloroso ドロローソ | 悲しげに |
amabile アマービレ | 愛らしく |
cantabile カンタービレ | 歌うように |
leggiero レッジェーロ | 軽快に |
よく使われるものをいくつか取り出してみました。
音楽には、明るい曲もあれば悲しそうな曲などいろいろありますよね。
それをよりはっきり表現するために、作曲家がこの楽想標語を楽譜に書きこむんです。
このコトバも何だか難しそうウッキー。
でもイメージと結びつけて考えると、以外に理解しやすいのよ。
いくつか見てみましょう。
例えば、misteriosoミステリオーソ。
コトバが、ミステリーとかミステリアスという響きに似ています。
ミステリー、ミステリアスは英語で不思議とか神秘的という意味です。
日本でも会話の中で使われるコトバなので、イメージしやすいですね。
また、悲しげにという意味のdolorosoドロローソ。
ドロロー→暗そーで重そーな感じ=悲しげという風に考えると、何だか分かりやすいと思いませんか?
もう一つ例をあげましょう。
愛らしいという意味のamabileアマービレ。
アマ→甘い感じ→甘いといえばかわいい女の子=愛らしいというイメージがわいてきませんか?
このように、日本語のイメージで結びつけて考えると、曲想標語も楽しく感じるでしょ?
なんかおもしろくなってきたウッキー。
楽器演奏のやり方を表す奏法標語
曲を演奏していると、普段とは違った演奏方法が必要になるときもあります。
次は楽器演奏方法を表す奏法標語を見ておきましょう。
奏法標語 | 使われる楽器 | 意味 |
Ped. ペダル (※という記号が書かれることもあります) | ピアノ | ダンパーペダル(右端のペダル)をふむ |
pizzicato(pizz.) ピッツィカート | ヴァイオリンなどの弦楽器 | 弦を指ではじいて |
arco アルコ | 弓を使って | |
flatter フラッター | フルートその他の管楽器 | 巻き舌で吹くトレモロ |
たくさんある中の一部をまとめてみました。
例えばped.(または※)は、ピアノに付いている3つのペダルのうち、右端のダンパーペダルを踏む、という意味ですが、このペダルを踏みながら音を出すと、音が長~く響きます。
指を鍵盤からはなしても、ペダルを踏んだままなら音がずっと響いたまま。
また、ヴァイオリンなどの弦楽器は、通常は左手で弦をおさえ、右手で持った弓を弦にこすり当てて音を出すもの。
でもpizzicato(pizz.)と書かれていたら、弓を弦にこすり当てるのではなく、弦を中指などではじいてポンポンという音を出すのよ。
なんかそういうポンポンっていう音、きいたことあるウッキー。
しかも弦を指ではじいている間、弓は右手の薬指と小指で握りこむように持ったままで器用にポンポンとやります。
ではモンキチくん、説明が長く続いたからつかれたでしょう。気分転換に曲をきいてみましょうか。
わーい、きいてみたいウッキー!
まず、Largo(幅広くゆったりと)の用語が使われている、ショパン作曲24の前奏曲Op.28-4です。
少し悲しげな曲ですが、ゆったりとしたテンポでLargoの感じがよく出ています。
もう1曲聴いてみましょう。
同じくショパン作曲の有名な「子犬のワルツ」です。
これは、Vivace(活発に速く)の用語が使われています。
子犬が、活発にすばしっこく動き回る感じがよく伝わってくる曲ですね。
どっちもいい曲だウッキー。
この2曲を作曲したショパンは、「ピアノの詩人」といわれているのよ。
では次に、私たちの身近にある音楽用語を見てみましょう。
日常生活にある音楽用語
ここまでいくつか音楽用語を紹介してきましたが、これはたくさんの中のほんの一部。
もうこれ以上頭に入りそうにない~なんて思うかもしれませんが、音楽用語は以外にも私たちの日常生活のなかにまぎれこんでいるんですよ。
あなたの身近にもあるかも?
いくつか見てみましょう。
音楽用語が使われた車の名前
日本の車の名前に、音楽用語がけっこう使われています。
見てみましょう。
日産の車
- フーガ(fuga 1つの主題が繰り返される曲)
- ノート(note 音符 )
- マーチ(march 行進曲)
- ラルゴ(largo 幅広くゆったりと)
ホンダの車
- プレリュード(prelude 前奏曲)
- コンチェルト(concerto 協奏曲)
マツダの車
- エチュード(etude 練習曲)
スズキの車
- アルト(alto 女声の低音部)
これぜんぶ音楽用語なんだ。知らなかったウッキー。
いくつか取り出してみたけど、けっこうあるわよね。
会話の中で使われる音楽用語
何気なくつかっている日常会話のなかにもいろいろあるんですよ。
- テンポ(tempo 速度)→「テンポよくいこう」など。
- アンサンブル(ensemble いっしょに)→ファッションでよく使われる「ジャケットとスカートのアンサンブル」など。
- アクセント(accent その音を強調して)→「これがいいアクセントになっているね」など。
- バリエーション(variation 変奏曲)→「いろんなバリエーションがあるね」など。
- アドリブ(ad libitum 自由に)→「アドリブがきくよね」など。
そのほか、コース料理の最後に出てくるデザートをドルチェということがありますが、これは音楽用語でdolce(やわらかく)という意味です。
へ~、こんなにいろいろあるんだウッキー。
日常生活の周りで音楽用語が使われていると思うと、なんだか親しみがわいてくるでしょ?
音楽用語のもっと深いおはなし
曲の速度や音の大きさ・曲の雰囲気などを表す音楽用語。
今までは音楽用語の意味と種類について説明してきましたが、この音楽用語に関してもっと深く勉強してみましょう。
モンキチくん、音楽用語のことをもうちょっとくわしくお勉強しましょう。
わー、おもしろそうウッキー。
音楽用語は作曲家の考えや想いの表れ
「白鳥の湖」というとても有名なバレエ曲の作曲者、チャイコフスキー先生です。
クラシック音楽は、自分で好き勝手に演奏することはできません。
チャイコフスキー先生が言っているように、作曲家はこういう風に演奏してほしいという、自分の考えをこめて曲を作っています。
その作曲家の考えをしめすものが「音楽用語」です。
そして、書かれてある音楽用語をきっちり守って演奏することにより、作曲家の意図をくみとった生き生きとした演奏ができるのです。
音楽用語って大切なんだねウッキー。
作曲家の深い想いがこめられているの。作曲家によってそれぞれ音楽用語のつけ方にもクセがあって、それがその作曲家の個性にもなっているの。
音楽用語って何語なの?
では音楽用語はいったい何語なのでしょう?
正解は、大体がイタリア語です。
ドイツ語やフランス語の音楽用語が書かれてある楽譜もありますが、イタリア語が圧倒的に多いです。
世界の共通語は英語といわれていますが、クラシック音楽での世界の共通語はイタリア語といえます。
先生、なんでイタリア語なの?ぼくサル語だったら得意なんだけどなウッキー。
なぜかしら?では次に、音楽用語がいつから使われはじめたのか、またなぜイタリア語が多いのかを説明していきましょう
音楽用語が使われはじめたのはいつ?
クラシック音楽の始まりは6世紀ごろで、15世紀ごろに今の音楽のカタチが出来てきたといわれています。
でもこの頃、音楽用語はまだほとんど使われていませんでした。
なぜ使われていなかったのでしょうか?
もともと神様にお祈りするためのもの
クラシック音楽とキリスト教はとても深いつながりがあります。
教会でキリスト教の神様にお祈りをするときにオルガンその他の伴奏で歌われる聖歌が、クラシック音楽の最初のカタチです。
最初の頃のクラシック音楽はお祈りするときに歌われるものであって、人前で披露するためのものではありませんでした。
だから、この頃の楽譜に音楽用語はほとんど書かれていません。
お祈りをするのに、ここの音は強くとか弱くとかなど、必要はないですからね。
キリスト教の本場イタリア
モンキチくん、キリスト教の本場ってどこかしら?
うーんと、おさるの本場といえば、大分の高崎山なんだけど、ウッキー・・。
正解は、ローマ教皇がいるイタリアです(正確にはイタリアの都市ローマの中にあるバチカン市国ですね)。
バチカン市国の中にあるサンピエトロ大聖堂は、キリスト教の総本山。
ローマ教皇がいるイタリアは1世紀からキリスト教の中心として栄え、聖歌もたくさん歌われてきました。
時代がすすむにつれて、お祈りのためだった聖歌や伴奏に使われていた楽器の演奏が、イタリアの貴族や王様のまえで披露されるように発展していきます。
そうするうちに、よりいい演奏になるように、楽譜にここはもっと強くとか弱くとか指示が書き込まれるようになりました。
これが、音楽用語の始まりです。
音楽用語にイタリア語が多いのも、イタリアがキリスト教の本場であり、聖歌が多く歌われ発展してきたからなんですね。
まとめ
音楽用語に多く使われているイタリア語は、じつは音楽だけのための特別な言葉じゃないんです。
イタリア語の日常会話で使われている普通のコトバなんですよ。
たとえばpresto(プレスト)は、イタリアの日常会話では「すぐに、近々、速く、ただちに」などの意味で使われます。
ですから音楽用語を覚えれば、イタリア語にちょっとだけくわしくなれます(音楽用語とイタリア語の日常会話では、少し意味合いが違うこともありますので注意が必要ですが)。
そう考えれば、音楽用語にたいしてそんなに身構えなくても、わりと受け入れやすく考えられますね。
でも音楽を生き生きとさせてくれる音楽用語は、演奏する側にとって時にはちょっとクセモノ。
ここでこんなことやるの?とおどろくような指示が書いてあったり、なんでこんな難しいことやらせるの~!?と苦しみながら演奏したりすることもたくさん。
それでも、作曲家のおエライ先生たちの曲に込めた想いを尊敬するフリをして一生懸命演奏するのです。
でも中には、これはどう考えても作曲家本人の書き間違いだろうと解釈されている用語や記号もあるんです。
作曲家のセンセイたちも天才とはいえ人間ですからね。
そういうものは、正しくはおそらくこうなんだろう、と考えられる標語に直されて演奏されています。
今度楽譜を目にする機会があれば、ぜひ音楽用語をよく見てみてください。
音楽用語にこめられた作曲家の考えに想いを寄せてみましょう。
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