移調楽器(いちょうがっき)とはなんでしょう?
漢字の意味から考えてみると、「調(音階)」が「移る」楽器となりますね。
じつは、これだけで移調楽器のちょっとした説明になっているんです。
もしこれだけでピーンときた人はエライ!
でも、これだけでは分からないひとがほとんどだと思うんですよね。
知っている人は知っている、知らない人は知らない移調楽器。
もしかしたら、さっきの「調(音階)」が「移る」楽器という説明を見て、逆にますます分からなくなってしまった人もいるかもしれません。
でも、分かってしまえばそんなに難しくはない移調楽器。
移調楽器とはどういうことか、また移調楽器といわれる楽器にはどういう種類があるのか。
イチョー探偵とその助手ガッくんといっしょに、あなたもナゾを探っていきましょう。
移調楽器のナゾ解きスタート
ここはとある探偵事務所。
今日もイチョー探偵のもとに、ボスからのミッションが届きました。
ふむふむ、移調楽器か。よし、ナゾ解きのはじまりだ。よろしく頼むよガッくん。
はーい、がんばるゾーイ。
移調楽器とはなんですか?と聞かれたときの定番の答えとして、
「記譜音(きふおん)と実音(じつおん)が異なる楽器」
という言い方があるんです。
分かりやすくいうと、楽譜に書かれた音(記譜音)と実際に出てくる音(実音)が違う楽器、となります。
記譜音と実音が異なる楽器。どうだガッくん、分かるかい?
イチョー探偵とガッくんもこれだけでナゾ解きするのはムリみたい。
結論をいってしまうと、ピアノで弾くドレミとは違うドレミのを持った楽器のことを移調楽器というんです。
んん?ピアノとは違うドレミを持った楽器?どういうことだ?
うーん、余計に分からなくなってしまったゾーイ。
結論は分かっても、なんの事なのかますますナゾが深まってしまったようですね。
それではイチョー探偵・ガッくんといっしょに、「ピアノとは違うドレミを持つ移調楽器」についてナゾ解きをしていましょう。
移調楽器はドレミの音が違う
「ドレミファソラシド」を知っていますか?
バカにしないでよ、それぐらい分かる!と思った人もいるでしょう。
でも、もしかしたらあなたが思っているものとはちょっと違うかもしれませんよ。
ではまず、この楽譜をピアノで弾いてみます。
これが普通の「ドレミファソラシド」ですね。
では次に、この同じ楽譜をクラリネット(B菅)で吹いてみます。
どうですか?
ピアノとクラリネット(B菅)の音で聴き比べるので、音質が違うのは当然ですが、音の高さが違うことを分かってもらえたでしょうか?
ふむ、クラリネット(B菅)のほうが、ピアノよりも音が少し低いゾ。
もし分からなければ、もう一度聴き比べてみてください。
クラリネット(B菅)で実際に吹いて出てきた音の高さを、ピアノの音の高さの楽譜に書き変えるとこうなります。
クラリネット(B菅)でドレミファソラシドを吹くと、なぜか実際に出てくる音はピアノでいうところの♭シドレ♭ミファソラ♭シの音になるんです。
つまり、ピアノのドレミから1音下げたものがクラリネット(B管)のドレミになるんだゾーイ。
1音くらいの違いだったら、そんなに変わらないかも?と思ったかもしれませんが、この2つのドレミを同時に演奏するとどうなるでしょう?
分かりやすいように、どちらともピアノで弾いてみます。
う~ん、かなり不協和音だな、ガッくん。
耳がつらいゾーイ。
完全に音がぶつかっています。
不思議ですね~。
ピアノもクラリネットも、同じドレミの楽譜をみて音を出したのに、実際に出てくる音が違う。
つまり、これが移調楽器の正体だな。
世界の基準となるドレミファソラシドの音は、最初にピアノで弾いたときの音です。
ヴァイオリンをはじめとする弦楽器やフルート、オーボエ、ファゴット、トロンボーン、ユーフォニウム、チューバなどはこのピアノと同じドレミを持った楽器たちで、こういう楽器を実音楽器といいます。
ここまで説明をきくとだんだん理解できてきたんじゃないでしょうか。
そして、この実音楽器に対してピアノのドレミとは違うドレミを持った楽器のことを移調楽器というんですね。
これで少しすっきりできたと思いますが、ここからさらに移調楽器について深くさぐっていきますよ。
楽器名に付く○○管の意味
さきほどから「クラリネット」の楽器名が出てくるたびに、単にクラリネットとは言わず、クラリネット(B菅⦅ベーカンと読みます⦆)と言っていることに気づいたでしょうか?
ここが大事なんです。
移調楽器といわれるものは、すべて楽器名のあとに〇〇菅というコトバがつきます。
クラリネット(B菅)でドレミを吹くと、ピアノの♭シドレ♭ミファソラ♭シの音になる、でしたね。
つまり、クラリネット(B管)のドはピアノの♭シ。
では次の楽譜をみてみましょう。
これはさっき出てきたクラリネットマークの楽譜だが、さっきとはちょっと違うところがあるゾ。
音符の読み方が、カタカナのほかにアルファベットも書いてあるゾーイ。
このアルファベットは、ドイツ語の音符の読み方で、♭シは、ドイツ語でB(ベーと発音します)と言います。
クラリネット(B菅)のドは、ピアノの音で♭シになっていることを頭に入れながら、B菅というコトバにもう一度注目しましょう。
楽器名のあとに付く〇〇菅の〇〇の部分は、その楽器の「ド」の音が、ピアノのドレミのどこの音にあたるかを指します。
つまり、クラリネット(B管)のBは、クラリネットの「ド」の音が、ピアノの♭シ(ドイツ語でB)にあたることを指すんです。
だからB菅というんですね。
B管以外にも、移調楽器にはいろんなアルファベットの管があるんですよ。
つまり、いろんなドレミがあるということ。
しかし、ドレミの音が楽器によって違うということは、考えてみると大変じゃないか、ガっくん。
さっきのピアノのドレミとクラリネット(B管)を同時に弾いたときの音の響きを思い出しましょう。
同じ基準のドレミで演奏しないと、響きもハモらないし音がぶつかってしまいます。
ではどうすれば、移調楽器と実音楽器が同じ音でいっしょに演奏することができるのでしょう。
それを説明していきます。
移調楽器の楽譜を見てみよう
ではクラリネット(B管)の音を、世界のドレミ基準であるピアノのドレミと同じ高さの音が出るようにしてみましょう。
クラリネット(B管)の「ド」は、実際にはピアノの「ド」から1つ下の「♭シ」の音、となっていましたよね。
逆にいえば、クラリネット(B菅)は音を1つ上げて吹けば、ピアノと同じ高さの音が出るということだな。
じゃあ、クラリネット(B菅)は、いつも1つ音をあげながら演奏するればいいゾーイ。移調楽器のナゾは解決ゾーイ。
でもそれだと大変。
普通なら演奏するときは、
- 楽譜の音符を見る
- 音を出す
の2ステップですむところ、音を上げながら演奏するということは、
- 楽譜の音符を見る。
- その音を上の音に読みかえる。
- 音を出す。
の3ステップになってしまいます。
それでは、楽譜をみて音を出すまでに時間がかかるな。
だから、いちいちそんなことをしなくても済むように、クラリネットの楽譜は音を上げて作られているんです。
たとえば、「きらきら星」の曲の前半を演奏するとしましょう。
これがピアノはじめ、世界共通のドレミの音を持った実音楽器で演奏する楽譜です。
実際にピアノで演奏すると、
となります。
でもクラリネット(B管)でこの楽譜を見てそのまま演奏すると、
となってしまいます。
だから、クラリネット(B菅)で演奏するときの「きらきら星」の楽譜は、音を1つ上げて書かれています。
クラリネット(B管)でこの楽譜を見て演奏すると、
これで、ピアノと同じ音で演奏ができるようになるのです。
では次に、どうして移調楽器のドレミは音が違うのか説明していきます。
ややこしいドレミのワケ
では、どうして移調楽器はピアノのドレミと音が違うのだろう?
とってもややこしいゾーイ。
ピアノと同じドレミだったらわざわざ音を変えなくていいし、同じ楽譜で演奏することができて便利ですよね。
じつは、クラリネットのなかにはC菅(ツェーかん)という種類があるんです。
ここまでのおさらいが出来ている人は、ん?C管?ということは・・とすぐ分かったかもしれませんね。
では、ドイツ語読みが書かれたクラリネットマークの楽譜をもう一度見てみましょう。
「C」と書かれたところを見ると、ピアノの「ド」と同じ音になっているゾ。
〇〇菅の〇〇がC(ド)ということは、C菅はピアノと同じドレミを持った楽器だということなんです。
ということは、ピアノのドレミと同じ音で演奏できるということ。
じゃあ、このC菅のクラリネットをいつも使えばいいゾーイ。
たしかに、私もそう思います。
でも、いつもこのC菅を使うことはできないんです。
なぜでしょう?
この理由が、ピアノと違うドレミを持っている移調楽器の存在の理由にもなっているんです。
楽器には、その楽器の材質とか構造上、一番いい音が出て正しい音程が取れる楽器のサイズがあるんですよね。
移調楽器は、一番いい状態で演奏が出来るように設計されて作られた結果、ピアノとは違うドレミを持つ楽器になった、ということなんです。
ふむふむ、クラリネットにはB・C管のほか、A(アー)・Es(エス)・D(デー)菅などがあり、特色によって使い分けているようだ。
C菅以外はみんな移調楽器で、一番よく使われるのはB菅とA菅です。
なぜ、B菅とA菅がよく使われるのか?
それは、一番美しい音が出て正しい音程で演奏出来るからです。
ちなみに、C菅のクラリネットは一昔前までは音程が悪くて使うのが難しいと言われていました。
今では改良が進み、状態がよくなったので使う人も多いですが、B・A菅と比べると音が軽めで、ちょっと深みの足りない響きです。
なるほど、管によっていろいろ特徴があるんだゾーイ。
移調楽器ができた理由は、いろいろな難しい音楽事情もあるといわれていますが、これが一番分かりやすく大きな理由ですね。
移調楽器の種類
移調楽器としてクラリネット(B菅)を紹介しましたが、世の中には移調楽器がまだまだあります。
その中で、代表的なものをいくつか紹介しましょう。
人気のある楽器アルトサクソフォーン
サクソフォーンはいくつか種類があるが、なかでも人気があるのはアルトサクソフォーンだな。
ジャズなんかでカッコよくピロロ~と吹いてて、なんとなく絵になるゾーイ。
アルトサックスとよばれて親しまれ、趣味で習っているひとも多いですね。
でもこれも移調楽器なんです。
アルトサックスのドレミを、ピアノの音で聴いてみましょう。
アルトサックスのドレミをピアノのドレミにすると、
この楽譜の音になります。
アルトサックスの「ド」の音は、ピアノの「♭ミ」=ドイツ語のEsです。
このことから、アルトサックスはEs管の移調楽器だということが分かりますね。
華やかな音のトランペット
みんながよく知っていて、アルトサックスと同じくらい人気があるトランペット。
トランペットのドレミはどんな音かというと、さきほど紹介したクラリネット(B菅)と同じなんです。
実はトランペットもクラリネットと同じようにC管があって、オーケストラで演奏する人はB・C管どちらも持っています。
管ごとに音質も違うから、曲によってうまく使い分けるんだな。
でも、トランペットの初心者の方はB管ではじめますし、吹奏楽で使われるのもB管なので、B管のほうが使われる機会は多いですね。
カタツムリのような形のホルン
ホルンは丸くてカタツムリみたいな形の楽器だゾーイ。
吹奏楽やオーケストラで活躍するホルンも移調楽器なんだな。
ホルンでよく使われるドレミは、F管とB管の2種類です。
F管・B管それぞれ楽器が別々になったシングルホルンと、1つに楽器でF管・B管と切りかえができるダブルホルンがあります。
B管はクラリネットとトランペットのところで紹介しましたので、ここではF管についてみていきます。
では実際のホルンの音でドレミを聴いてみましょう。
やわらかであたたかな音ですね。
楽譜でみると、
となります。
この楽譜から、ホルン(F管)の「ド」の音は、ピアノの「ファ」=ドイツ語のFということが分かりますね。
よし、これで移調楽器のナゾが解けたぞ、ガッくん。
無事にミッション終了だ。これでボスに報告できるゾーイ♪
ボスからの指令が無事に終わってよかったですね。
イチョー探偵にガッくん、おつかれさま。
まとめ
少し難しかったかもしれませんが、移調楽器とはいろんなドレミを持つ楽器であるということを、楽譜や動画を使いながら説明してきました。
最初にお話しした「記譜音と実音が異なる楽器」の意味がこれで理解できたでしょう。
世界のドレミの基準は、ピアノのドレミの音。
移調楽器たちは、その楽器の良さを生かすことで、ピアノのドレミとは違うドレミをもつ楽器となりました。
しかしそのおかげで、個性豊かな楽器がたくさん誕生して、音楽がより楽しくなったといえます。
この知識をもったうえで音楽を聴くと、今までと違った新しい音楽のとらえ方ができるのではないでしょうか。
だれかに「移調楽器ってなに?」ときかれたら、「ひと言でいえば記譜音と実音が違う楽器っていうことだね」と言ってみましょう。
なんとなく専門家的でカッコイイ感じの答え方なので、質問した人から「へぇ~」と尊敬の目で見てもらえそうです。
楽器買取ってどうなの?
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